近年、日本でもBMIが25以上の肥満の方が増加しており、それに伴い肥満症治療への関心が高まっています。その中でも、肥満症に対する外科的治療として、胃の大きさを縮小すること(胃を小さくする手術)で減量を図る手術が注目されています。
この記事では、胃を小さくする手術がどのような治療法なのか、手術の具体的な内容やその減量効果について解説します。
胃を小さくする手術とは?
胃の大きさを縮小する手術は「スリーブ状胃切除術」と呼ばれます。この手術では、胃の外側を切除し、胃を筒状(スリーブ状)に再形成します。これにより、胃の容量が大幅に減少し、摂取できる食事量が自然に制限されます。少量の食事でも満腹感を得やすくなるため、結果として食事量が減り、減量効果が期待できます。
スリーブ状胃切除術は、主に腹腔鏡を用いて行われ、国内で行われる肥満治療手術の多くがこの腹腔鏡下スリーブ状胃切除術となっています。
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の手術方法(術式)
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術では、腹部に5〜15mmほどの小さな穴を数箇所開け、特殊な器具を挿入して手術を行います。この手術では、胃の大弯側(外側)を胃底部も含めて切除し、細長い形状に再形成します。これにより、胃の容量は約10分の1(60~100cc)にまで減少します。
手術の最後には、切除した胃の大部分を体外に取り出します。
手術の効果
スリーブ状胃切除術の体重の減少に関する効果については、海外で2万例以上を対象に行われた解析において、超過体重減量率が55.4%であったことが示されています1-4)。また、術後の糖尿病の臨床的寛解(投薬やインスリンなどを用いずに、検査値が正常化した状態)および改善率は、それぞれ66.2%、86.9%であることが報告されています 1-5)。
このように、スリーブ状胃切除術は高い減量効果が得られるだけでなく、糖尿病に対する改善効果も非常に高いことが示されています。
超過体重減量率とは
手術後の体重減少は通常“超過体重減少率”で表します。超過体重減少率は、減量効果を測る指標で、日本人の理想体重であるBMI 22kg/㎡を基準とした時の超過体重の何パーセントが治療により減ったかを表したものです。
例えば、Aさんが165cmだとすると理想体重は60kgです。Aさんの実際の体重が100kgであったとすると、超過体重は40kg(100 -60=40)です。体重が30kg減った場合、超過体重減少率75%(30÷40=0.75)となります。
■参考文献
1. Buchwald H, et al. Bariatric Surgery. A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2004 292(14): 1724-1737.
2. Brethauer SA, et al. Systematic review of sleeve gastrectomy as staging and primary bariatric procedure. Surg Obes Relat Dis 2009 5(4):469475.
3. Puzziferri N, et al. Long-term follow-up after bariatric surgery: a systematic review. JAMA. 2014 312(9):934-942.
4. 笠間和典 他. 内分泌 臨床分野での進歩 減量手術および代謝手術の現状と展望.Annual Review 糖尿病・代謝・内分泌2014:192-197.
5. Gill RS, et al. Sleeve gastrectomy and type 2 diabetes mellitus: a systematic review. Surg Obes Relat Dis. 2010 6(6):707-713.
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術に伴うリスク
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を含む減量手術は、非常に高い効果が得られる治療法です。しかし、簡単な手術ではありません。また、高度肥満症の患者さまは、正常体重の患者さまに比べて合併している病気が多いため、手術自体にリスクが伴います。
そのため、減量手術にも他の手術と同様に、術後に起こり得る合併症があります。以下に、減量手術における外科的な合併症をまとめます。
縫合不全
腹膜炎
腹腔内出血
腸閉塞
吻合部狭窄
胃管狭窄
術後再出血 など
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の保険適用範囲
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は、BMI32以上の方で要件を満たせば保険診療による治療が可能です。保険適用の具体的な内容は、以下の通りです。
BMI35以上の場合
■6ヶ月以上の内科的治療を継続している
■糖尿病、高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群又は非アルコール性脂肪肝炎を含めた非アルコール性脂肪性肝疾患のうち1つ以上を合併している
BMI32~34.9の場合
■6ヶ月以上の内科的治療を継続している
■糖尿病(ヘモグロビンA1c(HbA1c)が8.0%以上)、高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、非アルコール性脂肪肝炎を含めた非アルコール性脂肪性肝疾患のうち2つ以上を合併している
まとめ
高度肥満症は、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の重症化に加え、睡眠呼吸障害や心不全、腎機能障害などを引き起こし、死亡リスクを高めます。
内科的治療を続けても減量効果が得られない場合、減量手術も治療の選択肢の一つです。今回取り上げた「スリーブ状胃切除術」などの減量手術による治療を一度ご検討いただければと思います。
減量治療は当院にご相談ください
東京都千代田区の四谷メディカルキューブ 減量・糖尿病外科センターでは、保険適用の腹腔鏡下スリーブ状胃切除術や腹腔鏡下スリーブ・バイパス術をはじめ、国内外で多数の腹腔鏡下減量・糖尿病外科手術を行っています。
また、カプセルを飲み込むだけで減量効果が得られるカプセル内服型バルーン治療「Allurionプログラム」や、BMI 27.5以上35.0未満の軽度肥満2型糖尿病患者さまを対象にした臨床研究なども実施しています。
当院では、減量治療におけるさまざまな治療オプションを備えており、患者さま一人ひとりの状態に合わせた治療を提供しています。治療に関する無料相談も受け付けております。お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
■四谷メディカルキューブ 減量・糖尿病外科センター
四谷メディカルキューブ 減量・糖尿病外科センターでは、高度肥満症の方を対象とした減量手術を行っています。減量手術において国内屈指の執刀経験を有しており、論文、学会発表、講演、メディア出演など、多岐にわたる活動を展開しています。
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