腹腔鏡下スリーブ・バイパス術
腹腔鏡下スリーブ・バイパス術(LSGB)は、2007年に当院減量・糖尿病外科センター長の笠間和典医師が開発した術式です。決して「全く新しい手術」ではなく、古くから行われているルーワイ胃バイパス術(食事摂取制限と栄養吸収阻害を起こす)と基本コンセプトは変わりません。食事摂取制限のみのスリーブ状胃切除術と比較すると、ルーワイ胃バイパス術は糖尿病の改善効果が高いことが分かっています。しかし、胃癌の多い日本人は検査ができなくなる胃ができるため、すべての人がルーワイ胃バイパス術を受けることはできません。そこで胃癌の多い日本人の糖尿病に対して適したバイパス手術としてスリーブ・バイパス術を開発しました。
手術方法について
通常のルーワイ胃バイパス術との違いは、胃の切り方と小腸をつなげる位置です。
通常のルーワイ胃バイパス術は、胃を20cc程度に切り離して、残った胃ができます。この残った胃は、空置されるため、内視鏡検査ができない胃となります。
しかし、スリーブ・バイパス術では、空置された胃ができないように切り取ってしまいます。
ルーワイ胃バイパス術では胃と小腸を吻合しますが、スリーブ・バイパス術では十二指腸と小腸をルーワイ胃バイパス術と同じように吻合します。
ただし、ルーワイ胃バイパス術よりも胃のサイズが大きいため、栄養吸収制限を若干強くします。
手術の効果
我々のデータでは、ルーワイ胃バイパス術と同等の体重減少であり、重度の糖尿病患者に対しても極めて高い寛解率を示しました。特に糖尿病に罹患期間が5年以上、インスリンをすでに使用している方、内科治療でコントロールが難しい方、BMIが45以上の重症肥満の方に対しては、スリーブ状胃切除術と比較して効果が高いことが分かっています。
特徴
デメリットとしては、スリーブ状胃切除術とルーワイ胃バイパス術を組み合わせているため、手術が複雑で、使用する機材が多く、手術時間が長くなります。(当院での手術時間:3~4時間)また、十二指腸の観察ができないため、膵管や胆管の内視鏡検査ができません。 手術が煩雑になるため合併症が増えると考えられますが、当院ではスリーブ状胃切除術と大きな差はありません。この手術は本当に熟練した減量外科医のみが行うべき高い技術を要する手術です。スリーブ状胃切除術と同様に、切った胃を取り出すため元に戻すことはできません。
メリットは、胃の幽門と呼ばれるリングを残して十二指腸と吻合するため、食べ物や食べ方によって食後に体調不良を起こすダンピングや潰瘍が少なく、胃の観察が通常の胃内視鏡でできるため胃癌のリスクのある方にも安心して施行できます。糖尿病やその他の疾患に対する効果および減量効果はスリーブ状胃切除術よりも高く、ルーワイ胃バイパス術と同様またはそれ以上と考えられます。
当院ではBMI27.5から30までの2型糖尿病の患者さまに対しても、この手術を行っています。現時点でBMI30以下に対して行える唯一の糖尿病治療のための外科手術となります。
手術の適応
・BMI30以上の方(重度の2型糖尿病の方はBMI27.5以上)
・肥満に起因する合併症をお持ちの方
・内科治療を行ったが効果が無かった方
・18歳~65歳の方
保険診療による手術の適応
2024年6月から腹腔鏡下スリーブ・バイパス術もは保険適用の対象となります。
腹腔鏡下スリーブ・バイパス術を5例以上術者として行っている常勤の外科医が在籍している施設でのみ、保険適応が認められます。
・BMIが35以上
・6ヶ月以上の内科的治療を継続している
・糖尿病を合併している
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術後の体重増加・逆流性食道炎にお悩みの方へ
2024年6月から腹腔鏡下スリーブ・バイパス術が保険適応になったために、スリーブ状胃切除術後の体重増加に対しても保険で手術が可能となりました。
また、スリーブ状胃切除術後の難治性逆流性食道炎に対しては、胃バイパス術(胃切除を伴う)+食道裂孔ヘルニア修復術が最も有効な手段とされています。
元々、BMI 50以上の方にはスリーブ・バイパス術の方が効果が高いとされていますが、保険適応の関係でスリーブ状胃切除術を選択された方も少なくありません。そのため、スリーブ状胃切除術では十分な効果が得られなかったり、体重が減った後にリバウンドしたりする方もいます。
そのような患者さまに対してスリーブ・バイパス術が保険で行える可能性があります。
スリーブ・バイパス術の保険適応は内科的治療を6ヶ月以上行っていること、BMI35以上で糖尿病があること、6ヶ月以上の治療を継続していることです。
スリーブ・バイパス術は現在保険適応でできる施設は限られています。
スリーブ状胃切除後に体重減少が不十分であったり、リバウンドまたは高度の逆流性食道炎が生じて困っている方は当院の外来でご相談ください。