よくある質問
手術の適応について教えてください。
BMI30以上で、肥満に伴う何らかの健康障害をお持ちの患者さまのうち、内科治療により十分な効果が得られない場合は外科治療の対象となります。年齢は18歳~65歳が目安です。
1型糖尿病は手術の適応になりますか?
高度肥満を併存している1型糖尿病は手術の適応になる可能性があります。担当医にご相談下さい。
減量手術は全ての糖尿病症例に有効な治療方法なのですか?
全ての糖尿病に対して有効というわけではありません。これまでの知見から、肥満を伴わない糖尿病症例や、インスリンを分泌する臓器である膵臓の機能が著しく低下している症例、糖尿病の合併症(腎症、網膜症、神経障害、大血管障害など)が著しく進行している症例に対しては有効性が乏しいと考えられます。
減量外科手術自体あまり聞いたことがありません。実験的な治療なのでしょうか?
肥満症に対する外科治療は、米国では1950年代から、日本では1982年から、当チームも2002年からこの治療を行っています。2008年のデータでは、世界で約34万件、北米で約23万件(これは北米における乳がんの手術件数よりも多い数です)もの外科治療が行われています(注1)。 臨床効果、長期予後、安全性に関しても多くの科学的なデータがある十分に確立された治療と言えます。
この治療は海外ではどのように受けとられているのですか?
高度肥満症に対する減量手術は、欧米では確立されている治療です。NIH(米国国立衛生研究所)は、唯一、外科治療のみが高度肥満症例に対して長期にわたる減量効果の維持が期待できる治療であると報告しています(注2)。2型糖尿病に対する外科治療に関しても、内科治療と外科治療とを比較したランダム化比較試験(注3,4,5)を含め、すでに多くの科学的根拠が立証されています。ADA(米国糖尿病協会)が、2009年のClinical Practice Recommendationにおいて、内科治療が奏功しないBMI 35以上の2型糖尿病症例に対しては外科治療を考慮するべきであると述べています(注6)。IDF(国際糖尿病連盟)も2011年に、①BMI 35以上の2型糖尿病症例に対する外科治療は妥当、②BMI 30-35の2型糖尿病症例に対しては、内科治療でコントロール不良の場合は考慮されるべき、③人種によるリスクを考慮するとアジア人ではBMIの基準を(欧米人の基準である①②と比較して)2.5ずつ下げられる可能性があると報告しています(注7)。
どうして手術で糖尿病がよくなるのですか?
糖尿病は、「インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群」と定義されています。インスリンは、血糖値を下げる働きをするホルモンで、膵臓で分泌されます。インスリン作用の不足とは、①血糖値を下げるために必要なだけのインスリンが分泌されない、もしくは、②インスリンは分泌されているが効きが悪い場合に生じます。減量手術により肥満が改善されると、インスリン抵抗性が改善され、インスリンの効きが良くなるため、糖尿病は改善する方向に向かいます。さらに、特にバイパスを含む手術後には、膵臓でのインスリン分泌を促す消化管ホルモンが分泌されるようになります。すなわち、手術後にはインスリンが効きやすくなるとともに、インスリンの分泌も改善するため、高い抗糖尿病効果が得られると考えられます(注8,9)。
腹腔鏡下スリーブ・バイパス手術を受けると、どの程度糖尿病が良くなりますか?
当院で腹腔鏡下スリーブ・バイパス術が行われた日本人糖尿病患者さま81名では、83%の患者さまで、糖尿病の臨床的寛解(=糖尿病に対する薬剤投与が不要で、HbA1c値や血糖値などの血液データが正常値化した状態)が得られました。残りの17%の患者さまについても、投薬量が減る、血液データが改善するなど有意な改善が得られました。ほぼ全ての患者さまで、インスリン治療から離脱することが可能でした。
胃がんで胃を手術しましたが、糖尿病は良くなりませんでした。同じような手術なのになにが違うのですか?
胃がんに対して、胃を切除し小腸をバイパスしてつなぐ同様の手術が行われる場合があります(胃切除+ルーワイ再建)が、必ずしも糖尿病が良くなるとは限らないことが分かっています。いくつかの理由が考えられ、一つには、胃がんの手術を受けられる患者さまの多くが肥満を合併していないこと、さらに胃がんに対する手術と肥満症に対するバイパス手術とではバイパスされる小腸の長さが異なっていることなどが挙げられます。
減量手術の長期的な成績はありますか?
2型糖尿病に対する治療効果に関して、長期効果を示す論文が報告されています。
Higaらの報告では、糖尿病の寛解率(薬物治療なしで血液データが正常化した割合)が術後2年目で83%、10年目で67%でした(注10)。スウェーデンのSOS studyでは、減量手術を受けた方が、新たに糖尿病を発症するリスクは、手術を受けなかった同程度の肥満者と比較して2年で86%、10年で75%低かった、と報告されています(注11)。
糖尿病が再発する可能性はないのですか?
減量手術により2型糖尿病の寛解状態が得られた後、再び再然することもありますが、多くの場合は長期経過後の体重再増加(リバウンド)によるものです。外科治療は、内科治療や他のダイエットと比較しても、リバウンドを起こしにくい治療ではありますが、体重維持のためには専門スタッフによる総合的なサポートが非常に重要です。当院では、医師だけでなく、肥満症外科治療の経験が豊富な管理栄養士や運動トレーナー、保健師が患者さまの治療にあたっています。
バイパス手術は小腸を切除する手術ですか?
バイパス手術(腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術、腹腔鏡下スリーブ・バイパス術)では、小腸をバイパスすることにより食物ならびに消化液の流れるルートを変えます。小腸そのものは切除しません。
普通の食事が取れるまでどれくらいかかりますか?
術後1ヶ月間はほぼ流動食のような食事になります。その後、少量ずつ普通食を摂れるようになります。最初は食べにくい食品がある方がいらっしゃいますが、半年~1年で色々な食品が食べられるようになります。
手術後、外食や会食を楽しむことはできますか?
術後1ヶ月間は食べられるものが限られるので、外食は難しいことが多いです。それ以降は少量であれば食べられるため、外食や会食を楽しんでいる方はたくさんいらっしゃいます。しかし、術後半年は禁酒が必要です。
手術を受けると、食事の楽しみがなくなってしまうのではないでしょうか?
一度にたくさんの量を食べることはできなくなりますが、少量の食事で満腹感が得られるため、食事の量より質を楽しむことができるようになったと言われる患者さんが多くおられます。
脱水は必ず起こりますか?
術後1-3ヶ月の(胃を切除したことで)摂取可能な食事量が少なくなってしまう時期に、必要なだけの水分が摂れないと脱水症状をきたす可能性があります。そのため、手術を受けられた患者さまには、意識して水分を多く摂って頂くよう(目安としては、1日1.5-2リットル程度)ご指導させて頂いています。脱水症状が起きた場合、熱中症による脱水などと同様、一時的な点滴投与などで状態の改善が得られることが大部分です。
手術後に脱毛が起きますか?
手術直後の極端な食事制限により、一時的に脱毛が起こることがあります。術後3-6ヶ月が起こりやすい時期ですが、その後、元の状態に戻ります。
手術後、どのくらいで普通の生活に戻れますか?
当院での減量手術は、原則的に腹腔鏡を用いて行います。入院期間は通常、術後3日間程度です。術後経過や個人差(体力や仕事の種類、職場や家庭環境など)が大きいため一概には言えませんが、退院されてから平均1週間程度で社会復帰されている方が多いようです。
費用について教えてください。
減量手術のうち、腹腔鏡下袖(スリーブ)状胃切除術は厚生労働省が定める所定の基準を満たしていれば保険診療として受けることが出来ます。基準を満たさない場合、あるいは、他術式(腹腔鏡下胃バイパス術、腹腔鏡下スリーブバイパス術、内視鏡下調節性バルーン留置術)は自費診療となります。
実際に手術を受けられた方のお話を伺えますか?
手術前の不安や手術後に直面する様々な悩みに対応するために、当院ではサポートグループという患者会を定期的に行い、実際に手術を受けられた方との交流を図っています。手術前から手術後の長期に渡って患者さまをフォローする体制が整っています。
手術を実際に受けた患者さんは満足していますか?
治療満足度に関するアンケート調査を実施したところ、ほぼ全ての患者さまが治療を受けたことに対して「良かった」「とても良かった」と回答されています。生活の質(Quality of Life)評価においても、治療前と比較して大幅な改善が得られています。
家族が反対していますが手術は受けられますか?
ご家族の賛成が得られない場合は、原則的に治療をお断りしています。ご家族をはじめとした周囲の協力体制が得られない状態では、治療効果が得られにくいからです。肥満症は周囲からの協力が必要な難治性疾患です。最も身近な存在であるご家族の協力を得ながら一緒に減量し、健康状態を改善することに取り組んで頂きたいと考えています。
周囲の人に手術を受けたことを知られたくありません。どうしたらよいでしょうか?
こうすればよい、という解決方法はありません。治療をお受けになられた患者さまは、同様の悩みを持った方がたくさんいらっしゃいます。当院では術前・術後の患者さまが集まって様々な話をするサポートグループ(患者会)をひらいています。どうするのが良いか、みんなで一緒に考えましょう。
手術後、希望すれば元の状態に戻すことはできますか?
元に戻せる手術もあります。減量手術には複数の術式があります。腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術では、摘出される臓器がないため一般的ではありませんが、元の状態に戻すことは可能です。腹腔鏡下袖(スリーブ)状胃切除術ならびに腹腔鏡下スリーブ・バイパス術では、手術時に胃の外側を切除して摘出するため、元の状態に戻すことはできません。
手術の安全性について教えてください。
他の外科手術同様、減量手術にもリスクがあります。減量手術を受けることによる死亡リスク(死亡率)は一般に0.5-1.0%程度と報告されています(注12)。減量手術が広く行われている米国では、第三者機関が査察を行い、手術件数が多く、安全に治療が行われている病院をCOE(Center of Excellence:卓越した拠点)として認定しています。米国のCOE認定施設のみのデータでは、死亡率は0.13%でした(注13)。0.13%は胆石に対して行われる腹腔鏡下胆のう摘出術と同程度です。(当院は2012年1月に日本で初めてCOE認定を取得、2015年12月で契約終了)。
手術に伴う合併症にはどのようなものがありますか?
手術後に逆流性食道炎が起こると聞きましたが本当ですか?
逆流性食道炎は肥満との関連が深い疾患です。これは蓄積した内蔵脂肪によって腹圧が上昇するためと考えられます。従って、減量手術によって体重が落ちると逆流性食道炎が改善するという現象はしばしば認められます。一方、手術の方法によっては手術自体により食道と胃のつなぎ目にある逆流防止機構が影響を受け、術後に逆流性食道炎が増悪する場合があります。その場合も、大部分の患者さまで内科治療(胃酸分泌を抑える内服薬)により症状をコントロールすることが可能です。
胃や腸を切除することで、自己免疫疾患や感染症などにかかりやすくなることはないですか?
減量手術により免疫システムが障害され、自己免疫疾患や感染症にかかりやすくなったというエビデンスは現在のところありません。外科治療により、高度肥満者の生命予後が改善することはいくつかの論文で示されており、対照群(外科治療が行われず、内科治療が継続された高度肥満者)と比較して、全体の死亡率を40%、心血管疾患による死亡率を56%、糖尿病による死亡率を92%、癌による死亡率を60%低下したことを報告しています(注14)。手術による減量と免疫システムとの関連を考察した論文(注15)によると、十分なデータは揃っていないものの、手術はリンパ球の一つであるNK細胞の機能を活性化し、心血管疾患や癌の発生を抑えるのに寄与している可能性があると考察しており、免疫システムに好ましい影響を与える可能性があると考えられます。
胃を小さくしてしまったら栄養失調になりませんか?
胃が小さくなると、食事量は少なくなりますが必要な栄養素が効率良く摂れるように工夫をすることで、栄養失調になることはありません。術後には不足しがちな栄養素をサプリメントで摂っていただく必要があります。
食事がキャップ1杯ずつしか食べられないというのは本当ですか?
[参考文献]
(注1)Admas TD, et al. N Eng J Med.2007
(注2)Gatrointestinal surgery for severe obesity. National Institute of Health Consensus Development Conference Draft Statement. Obes Surg. 1991
(注3)Dixon JB, et al. JAMA. 2008
(注4)Schauer PR, et al. N Eng J Med. 2012
(注5)Mingrone G, et al. N Eng J Med. 2012
(注6)American Diabetes Association: Standards of medical care in diabetes-2009. Diabetes Care. 2009
(注7)Bariatric Surgical and Procedural Interventions in the Treatment of Obese Patients with Type 2 Diabetes.
A position statement from the International Diabetes Federation. International Diabetes Federation. 2011
(注8)関 洋介、笠間和典、月刊糖尿、2012
(注9)Seki Y, et al, Obes Surg. 2016
(注10)Higa K, et al. Surg Obes Relat Dis. 2011
(注11)Carlsson LM, et al. N Engl J Med. 2012
(注12)Buchwald H, et al. Surgery. 2007
(注13)DeMaria EJ, et al. Surg Obes Relat Dis. 2010
(注14)Moulin CM, et al. Gastroenterol Hepatol. 2008
(注15)関 洋介、笠間和典、診断と治療、2012