内視鏡的スリーブ状胃形成術
内視鏡的スリーブ状胃形成術とは
内視鏡(胃カメラ)を用いて、専用の縫合器具(組織を縫い合わせるための器具)により胃を内側から縫い縮める治療です。胃の容量を小さくすることで食事摂取量を減らし、効果的に体重を減らすことが期待できます。
※胃は切除しません
上部消化管(胃カメラ)挿入口
縫合された胃
参考:腹腔鏡下スリーブ状胃切除術との違い
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は、腹部に数か所の小さな穴を開けます。その穴から腹腔鏡というカメラをお腹の中に入れて、胃の外側の一部を切除して、胃を細長く形成する術式です。
一方、内視鏡的スリーブ状胃形成術は、上部消化管(胃カメラ)を口から挿入して、胃の内側を縫合するので、より身体への負担が少ない治療と言えます。
本治療で用いる縫合器具
当院では、Apollo Endosurgery社のOverstitch®/Overstitch Sx®
を使用します。
アメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局)の承認器具ですが、日本では厚生労働省薬事未承認となっております。
特徴
・内視鏡(胃カメラ)を用いて行われるため、手術と異なり皮膚にきずがつかない
・手術と同様、全身麻酔下にて行われる
・手術と同様の術前検査が必要である
・胃を内側から縫い縮めるのみで、切除はしない
・体への負担が少なく、手術と比較てして入院期間が短い
・比較的、新しい手技であるため、大規模な研究での長期成績は明らかでないが、治療期間が限られている内視鏡下胃内バルーン留置術と比較して良好な減量効果が報告されている。一方、腹腔鏡下スリーブ状胃切除より劣ると考えられる
・胃の一部が縫い込まれるため、術後に胃カメラによる観察ができなくなる。そのため、胃がんリスクのある方は、本治療の適応にならない
・内視鏡下胃内バルーン留置術と異なり、簡単に元の状態に戻すことはできないが、縫合糸を切れば元の状態に戻すことが可能である
適応(治療の対象となる方)
1)年齢20歳以上65歳以下
2)BMI27以上 ▶BMIの計算(カシオ計算機株式会社「ke!san」
3)肥満に関連する合併疾患を有していること(美容目的の治療ではありません)
※以下に該当する場合は、手術適応外となります。
・胃の手術を受けている方
・食道胃静脈瘤がある方
・胃がんのリスク因子を有する方(ヘリコバクターピロリ感染や胃炎など)
・重篤な精神疾患を有する方
・その他医師の判断により治療不可と考えられる場合
効果と限界
2019年に報告された海外からの報告によると、内視鏡的スリーブ状胃形成術が行われた1,772名の患者さんの術後6ヶ月目における平均総体重減少率は15.1%でした。別の報告では、術後5年目における平均総体重減少率は14.5%でした。手術のように、長期的な効果も期待できる術式と考えられます。
当院における外科手術(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術)の術後5年目における平均総体重減少率が約25〜30%、内視鏡下調節性胃内バルーン留置術が留置後1年で約10%ですので、減量効果は両者の間に位置するものと考えられます。
本治療は、外科手術の適応を満たさない、あるいは胃を切るのは抵抗がある、という方に良い適応と考えられます。詳しくは外来診察時に担当医にご相談ください。
安全性
海外からの報告によると、重篤な合併症の発生頻度は2.2%でした。その内訳は、
・入院を要する疼痛または悪心:1.08%
・消化管出血:0.56%
・縫合不全、胃周囲の液体貯留:0.48%
・肺塞栓症:0.06%
・気腹:0.06%
・死亡:なし
※合併症により、手術(多くの場合、腹腔鏡下手術)が必要となる可能性もあります。
※死亡に関しての報告はありませんが、他の医療行為同様、死亡するリスクがゼロとは限りません。
安全に実施するための当院の取り組み
2020年1月、インドで開催されたトレーニングコースに笠間和典医師(当センター長)と馬場哲医師(内視鏡センター長)が参加し、修了認定を受けました。
笠間医師は同トレーニングコースにおいてMohit Bhandari医師の指導下、実際に患者さんに当治療を施行しました。現時点で、実際の患者さんにこの治療を行なった経験のある医師は日本では笠間医師のみです(2020年9月30日現在)。
※当院で実施するにあたっては、最初の数例は経験豊富な海外の医師の指導の下、安全性に十分配慮して行います。
費用
本治療は自費診療となります。
入院予定期間:2泊3日
手術概算費用:1,320,000円(税込)